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時を“愉む”

稲葉なおと (いなばなおと) 紀行作家・一級建築士

1959東京生まれ。東京工業大学建築学科卒業。国内外の名建築ホテルを題材に旅行記と写真を発表し続ける。初の旅行記『まだ見ぬホテルへ』が話題に。第2作の旅行記『遠い宮殿』で第10回JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。初の写真展『ザ・ホテル』を資生堂ギャラリー及びハウス オブ シセイドウにて開催。主な著書に写真集『アール・デコ ザ・ホテル』(求龍堂)、『パパズ ホテル 日本』(講談社)、『巨匠の宿』(新潮社)、他。最新刊は、フロリダでの父子2人旅を通し、父親とは、仕事とは、親子の絆とは、を描いた初の長編小説『ゼロ・マイル』(USEN)。

下町情緒の残る町に開いたアトリエで

名建築のホテルにこだわって、日本、そして世界中を旅する稲葉氏。自身が一軒一軒泊まり歩き、撮り下ろした写真とともに綴られた数々の著作からは、ホテルの建築物としての魅力はもちろん、そこに込められた建築家の想いやスタッフとのふれあい、宿泊者の様子などが味わい深く伝わり、気がつくと読者の心は名建築ホテルの旅へと誘われている。

数ある建築の中でも、稲葉氏が特にホテルにこだわるようになった原点は、26歳で出かけた初めての海外旅行にあるという。
「アメリカ国内を半年ほどかけて、ショッピングセンター、病院、美術館をはじめいろいろな建築物を見てまわったんですけど、そのときに、ホテルにこそ、人々が求める究極の心地良さがあるとつくづく感じましたね。僕は当時、レストランやクラブといった商業施設の設計を主に手がけていたんですが、各店のオーナーが自分の店のデザインに、常に海外の最新ホテルの意匠を意識されていたという影響もあります。ホテルを見れば、今求められている心地よい空間がどのようなものかが肌でわかる。住宅を設計する場合でも、住宅から発想した寝室と、ホテルの客室の心地よさを知ったうえで提案する寝室とでは、おのずとスケール感が違ってくるんですよ」

名建築の愉しみ方、そして稲葉氏自身が心を惹かれるホテルの条件とは何だろう。
「まず設計した建築家に興味を持って、その人が手がけた他の作品や作風を頭に入れてから泊まりにいくと、ホテルで過ごす時間の愉しみも深まるはずです。そういった背景はもちろん、建築家がその建物で何を表現したかったのかまで、オーナーやそこで働く人たちが理解した上で接客し、ゲストに伝えようと日々努力しているホテルに、ぼくは惹かれますね」

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