宙を感じる場所で──
森山未來、時の庭に立つ
雄大な宙(そら)に想いを馳せ、今という時を愉しむ。これをテーマに掲げる「カンパノラ」は誕生25周年を迎えた。「宙鏡(そらかがみ)」は、日本古来の漆芸で文字板を飾り、その歩みを祝す。今回向き合ったのは俳優・パフォーマーの森山未來。両者の邂逅から新たな時が生まれる。
巨匠の石庭で出会う、宙の時間
古代、人類は天空の運行から日々の時や季節の移ろいを感じ、やがて時間という概念を生み出した。さらに星空の配置を神話に登場する神々や動物に見立て、大いなる創造性とロマンチシズムを育んできた。そうした連綿と流れる時を刻み続けるカンパノラは、誕生から今年25年を迎えた。トレンドの移り変わりが激しい時計の世界にあっても、その哲学は一切揺らぐことはない。
SIO YOSHIDA
今回、森山未來が対峙した舞台は、東京・青山の草月会館ロビーに設えられた石庭「天国」。言わずと知れたイサム・ノグチの傑作である。パフォーマンスを前に、森山は「音楽を流す必要はありません」と言いきり、水のせせらぎに耳を傾け、巨岩を割った石肌を伝う水の動きを注視した。
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ミクロの宇宙をまとう楽しみ
「天国」と名づけられた空間でのパフォーマンスは圧巻だった。これまでの長大な時を封じ込めた石に対し、清澄な水のせせらぎが時間の流れを感じさせる。静と動が交錯するなか、森山の動きは途切れなく、その世界とシンクロしていく。
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「カンパノラと聞いてまず思い描いたのは宇宙でした。イサム・ノグチの作品からも独自の宇宙観が伝わりましたし、もともと石には興味があります。ストーンヘンジのような神聖さやコンポジション自体の面白さもあって、自然に表現できたと思います」その動きは、まさに惑星の軌道を描くような円運動を感じさせた。
「宇宙という言葉はすごく抽象的で、それをマクロなものとしたら広大ですが、それこそ石のような、どの世界にも宇宙は存在しているのではないでしょうか。人間の身体も同じでそんな宇宙を感じ、つねに動き続けるというイメージはありました」
SIO YOSHIDA
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そうした感情を引き出したひとつであるカンパノラについてこう語る。
「モデルによってそれぞれの模様や機構は違いますが、どれも好みです。いまはスマホなどで時間を確認することが多くなり、時計は個性で選ぶアクセサリー的な役割なのかもしれませんね。それでもカンパノラは時計として存在した上で、星空を腕にまとうような気持ちよさが味わえることに魅力を感じます」
宙鏡(そらかがみ)は、両手にすくった水に映る星々に人の営みを重ね想う、平安時代の詩に着想を得て、星空への抒情を表現する。モデルごとに異なる漆装飾を施した美しい文字板を通し、腕元に広がる宇宙を見るのだ。
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身体性のある時間に向き合う
俳優として、パフォーマーとして、さまざまな表現活動を通して時間芸術に取り組む森山にとって、時間とはどのようなものなのだろうか。
「正確に刻まれる時間によって、人々の生活や出会いが生まれ、円滑な社会が成り立つ。そうした時間も大事ですし、一方で時間も感覚的には伸びたり縮んだりすると思っています。パフォーマンスの世界で言うと、身体を介することで時間を伸縮させるメソッドやテクニックがあります。たとえば能の表現はまさにそうで、舞台という意味では時間芸術なのですが、刹那でありながら、それが永遠に続くかのように感じられる」
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そうした時間の伸縮を感じ取る過程で、意識が研ぎ澄まされていくような覚醒の感覚を得るという。
「時間にはさまざまな余白というか、自分自身が誘われていくポケットみたいなものがたくさん存在していて、その中に埋没していくことによって時間の感覚が狂っていく。長い年月をかけて、人間の脳はそうした時間の設定の仕方をするようになっているのだと思います。実際、あっという間に過ぎる1時間もあれば、永遠に感じる5分もある。その感覚を大事にして自分はパフォーミングアーツに関わっています」
時間の多様性に向き合うことで、何かが立ち上がる瞬間に意識を研ぎ澄ませている。
「表現には文脈やコンセプト、ストーリー性といったものも大事ですが、偶発的に、あるいは突発的に起こることも、意識的に身体表現として取り入れるようにしています。そんな直感的な部分を大切にしたいですね」
宙から人へ、ロマンが広がる
目の前に並んだ3本のカンパノラを見て、森山は思わずつぶやいた。
「星空が読めたら本当にいいなって、いつも思うんです。実際に星空を眺めて壮大な宇宙に憧れる一方で、形成される人間関係の中にもひとつのコスモがあり、素粒子の中にも宇宙が内在している。それはもう、すべてがひとつの連なりではないかという思いで、僕は宇宙というものを見ています。そう考えると、宇宙のすべてを理解することも、あるいは理解を希求すること自体も、必要ないのかもしれません。」
SIO YOSHIDA
カンパノラがテーマにする天空のロマンは、人間の創造性を常にかき立ててきた。森山にとってロマンを感じる対象や瞬間はどのようなものなのだろう。
「知らない国や土地に行き、文化の違いとか、そういうものに出会うとワクワクし、思いを馳せることはあります。 文化人類学や民族学的なことがすごく好きなので、国内の地名ひとつとっても、この場所にどうしてこんな名前がついているんだろうと考えたり、生活様式を見ていく中で、その土地に独自の風習や行動が残っている理由を知るのも楽しいですね」
SIO YOSHIDA
「そうしたことに着目し始めたのも海外で活動するようになってからです。日本という島国に生まれた人間として、何をこの場所で語り、表現するべきかを考えています。その答えだって一生出ないのかもしれないですが、それもまたひとつのロマンと言えるかもしれないですよね。触れれば触れるほど、いろいろなものがざくざく出てくるので、それを感じながら自分の身体を立ち上げていくというか。面白い行為だと思っています」と微笑む。
それは、歴史や文化への理解を肌感をもって深めることであり、自覚的に続けることであらゆるものの見方や所作にもつながっていくのでしょうと語る。そんな森山の内なる宇宙とカンパノラが呼応する。
PROFILE
1984年、兵庫県生まれ。5歳からダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年には文化庁文化交流使としてイスラエルに1年間滞在し、現地のダンスカンパニーに所属。以降、「関係値から立ち上がる身体的表現」を探求しながら、国内外で領域を横断した活動を展開している。俳優としても映画賞を多数受賞。2022年より神戸市にてArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立し、運営に携わる。現在、舞台『チ。―地球の運動について―』に出演するほか、『丹下左膳~大岡越前外伝~』(NHK BS)が放映予定。ポスト舞踏派。
Model / Mirai Moriyama
Photo / Sio Yoshida
Styling / Arisa Tabata
Hair & Make-up / Hiroko Ishikawa
Video Director / Yuki Fujinaga
Cinematographer / Hideaki Sakurai
Gaffer / Yasuhiro Ote
Video Producer / Tomonobu Yamamoto
Text / Mitsuru Shibata
Edit / Mikiya Otsuka(Esquire)