天と地、双方からの視点で──
尾崎世界観が見せる創造の宇宙
Taro Hirayama
見果てぬ宙(そら)に夢を託して、腕元にロマンを宿す時計「カンパノラ」。そのなかでも日本古来の漆芸を用いた「宙鏡(そらかがみ)」は、格別の存在感を放つコレクションだ。今回、その時計と対峙するのは、音楽と小説、2つの創造の宇宙を模索し続けるアーティスト・尾崎世界観。日々の葛藤と未来への希望が渦巻く、内なる宙へ──。
青という色が自分を正しい場所へと
引き戻してくれる
日の出と日没。我々を確かに地面に繋ぎ止める重力、普段意識することのない宇宙の力。
忙しない日中が過ぎ去れば、主役は星々へと変わり、そこにかつての詩人たちはさまざまな夢を見た。洋の東西を問わず、そこから実に多様な物語が生み出された。シチズンのカンパノラは「宙」に想いを託し、誕生から今に至るまで静かに時を刻み続けている。
今回、カンパノラの腕時計をまとうのは、アーティストの尾崎世界観。ミュージシャンとしての活躍はご存知のとおり、小説家としても2020年と2024年に芥川賞候補になるなど、両ジャンルで高い評価を受けている。そんな彼に、カンパノラについて、そして時間という概念について語ってもらった。
Taro Hirayama
腕時計「NZ0000-58L」¥1,320,000(カンパノラ/シチズンお客様時計相談室 tel.0120-78-4807) ジャケット¥198,000(USED/sinot tel.03-5738-8853) シャツ¥39,600、カットソー¥22,000、パンツ¥462,000(すべてオーラリー /オーラリー tel.03-6427-7141) ループタイ¥7,000(USED/アヤワスカ洋服店 tel.03-6887-9299)その他スタイリスト私物
今回登場するカンパノラのモデル「宙鏡」は、「宙空の美」というコンセプトを持つ。文字板には日本の伝統技術である漆芸が取り入れられている。尾崎は最初の印象を「1枚の絵のように美しい」と語ってくれた。
「絵画のような美しさがあると感じたんですが、実際に着けてみると、もっと立体的な奥行きがあって。やはり実物を見ないと伝わってこないものが、かなりあるんだなと思いました。それに、存在感がある。しっかりと、常に時計を意識できるというか、頼りがいがある感じがしますね」
Taro Hirayama
カンパノラはモデルごとに異なる漆芸の装飾を施しているが、「宙鏡」においてはブルーが重要なコンセプトカラーとなっている。
「青という色は自分の意識をフラットにしてくれます。それを見たときに、もちろん“気合い”のようなものが入るときもあるけれど、でもどちらかというと、正しいところに、もともとあった場所に感情が戻っていく感覚の方が強くて。青という色を見て、『ああ、意外と高ぶってたんだな』とか、そういうことに気づかされるという印象ですね。だから、定期的に見てリセットする。どこが自分の正しいポイントか、自分の通常の位置はどこなのかというのも確認できる気がします」
Taro Hirayama
シェルフ¥379,500 (テクタ)、テーブル(参考商品)、右奥のフロアライト¥264,000(フロス/以上アクタス tel.03-5269-3207) シェルフ左上から2段目コーヒーサーバー¥74,800(シントラックス) チェア¥132,000(d3)、ガラス天板のテーブル¥85,800(USED/以上interiors Pocket Park tel.03-6712-2188)
「宙鏡」の深いブルーは、夜に広がる神秘的な世界を表現しているが、尾崎自身、夜中にインスピレーションが湧くことが多いという。
「音楽でも小説でも、なにかを作るって恥ずかしいことだと思っていて。常にその、照れみたいなものがあるんですけど、一番それが薄れるのが夜中なんです。初めて曲を作ったときはめちゃくちゃ恥ずかしかったし、初めて自分の声を聞いたときも恥ずかしかった。でも、その照れの数値がゼロにはならなくとも、かなり減るのが夜中。だから、その時間帯は思い切って作れます。ただ、そういう気持ち、“照れ”が完全にゼロになってしまったら、表現者として良くないとも感じています」
空と地面、双方から受ける
インスピレーション
尾崎の歌詞の世界は、日常の風景や日々の営みから生まれるさまざまな感情を題材にしている。苦悩や諦観、ままならない日常、大切な存在を失ったことに対する後悔など、リアルな手触りのある歌詞が共感を生む。しかし、包み隠さず、あけすけに連なる言葉からは、それゆえの潔さ、ひたむきさも感じることができる。だからこそ、それでも前を向こうとする人々の背中を後押ししているに違いない。「いつだって地面を見てきた」と語るが、そこには絶対的な「空」があることも承知の上だ。
Taro Hirayama
腕時計「BU0040-20L」¥385,000(カンパノラ/シチズンお客様時計相談室 tel.0120-78-4807) レザージャケット¥50,600(USED/sinottel.03-5738-8853) シャツ¥42,000、パンツ¥60,000(共にヘリル/にしのや tel.03-6434-0983) カットソー¥19,800(オーラリー/オーラリー tel.03-6427-7141) その他スタイリスト私物
「空というものに対して、実は普段そこまで意識することはないんです。逆に地面を意識して、自分が今どこに立っているのかを、迷ったらその都度確認するようにしています。でも考えてみれば、それはやはり絶対的な空というものがあるからなんですよね。意識して考えなくてもいいくらい当たり前のもの、揺るぎないものなので、こうして改めて言われてみないと意識することはないんですが。
でもそれぐらい遠くにあるというのが、自分にとってはちょうどいい距離感なんだろうと思います。そして、今日着けてみて、そういうイメージが自分の腕にあるのも面白いと感じました」
Taro Hirayama
日常の何気ない瞬間、例えば一人暮らしの部屋の描写など、尾崎の歌詞はスナップ写真のようなリアリティがある。音楽が一瞬一瞬を切り取ったものであるならば、小説はそれが地続きになったもの。そして小説という虚構の世界の中で、登場人物たちはさらなる虚構の世界を作り上げる。音楽と小説。それぞれどのような時間が流れているのだろうか。
「音楽は短い時間で伝えないと届かないので、作っている時は細かく削っていく彫刻のようなイメージですね。削り出していくような感じ。小説はその逆で、限界まで削ぎ落としたものを、また引き延ばして膨らませていく。矛盾したことをやっている感覚もあるんですが、一度削って細かくするからこそ、引き延ばして膨らませる時に生きてくると思うので。とにかく、本当に感覚が違いますね」
Taro Hirayama
スツール¥198,000 (ミュッケ・メルダー/interiors Pocket Park tel.03-6712-2188)
「小説を作っているときは、時間がどこまでも真っ直ぐに伸びていく感覚があります。逆に音楽を作っている時は、これだけ思いを込めて作っているのに、どうして一瞬で終わってしまうんだろうというくらい早い。だから、たまに拍子抜けするというか。こんなにあっさり伝わっていいのかと不安になる時があります。もちろんそれは素晴らしいことでもあるんですが、もっとこっちは色々考えてやってるのになって、なんとなくモヤモヤした気持ちも残るので。今度はそのモヤモヤを小説にぶつけたりして、自分の中で調整しながらやっています」
Taro Hirayama
どこを切り取るか、
時間の捉え方は自分次第
カンパノラというブランド名は、世界で初めて人々に時を告げるために打ち鳴らされたとされる鐘の逸話に由来する。連綿と受け継がれてきた、悠久の時の流れ。脈々とつながってきた時間という存在を、尾崎はどのように捉えているのだろうか。
Taro Hirayama
腕時計「AH4080-01M」¥495,000(カンパノラ/シチズンお客様時計相談室 tel.0120-78-4807) ブルゾン¥297,000、ベスト¥79,200(共にUSED/sinot)パンツ¥99,000(TT+CC/sinot tel.03-5738-8853) シャツ¥44,000(オーラリー/オーラリー tel.03-6427-7141)タイ¥8,000(USED/アヤワスカ洋服店 tel.03-6887-9299) その他スタイリスト私物
「嫌なことがあればなかなか進まないし、良いことがあれば一瞬で過ぎ去る。時間は、自分が今どういう状態にあるのかを、突きつけてくるものだと思っています。不思議ですよね。音楽をやっているとき、小説を書いているとき、それ以外の仕事をしているとき。それぞれに流れる時間は、全く違う。誰にでも平等に流れているはずの時間なのに、自分次第で、その価値を変えることができる。40歳を超えて、これからまた時間の流れ方も変わってくると思うので、自分がどんなふうにそれを捉えていくのか、すごく楽しみです」
Taro Hirayama
誰しも、いい時もあれば、悪い時もある。しかし、彼によれば、それはどこを切り取るか次第なのだ。
「時間そのものは、自分ではどうすることもできない。当たり前に流れていくけれど、どこを切り取るか、どこを見るかによって受ける印象が変わってきます。これから先、その『時間の見方』を、より確かな自分だけのものにしていきたいと思っています」
PROFILE
1984年、東京生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル兼ギター。2012年に、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。日常のリアルなシーン、そして押韻を多用した歌詞は文学的な評価も高く、2016年には半自伝的小説『祐介』で小説家としても広く知られることに。2020年の『母影』、2024年の『転の声』で、それぞれ芥川賞候補に名を連ねる。
- ●問い合わせ先
- シチズンお客様時計相談室
TEL 0120-78-4807
Model / Ozaki Sekaikan
Photograph / Taro Hirayama
Styling / Taichi Sumura
Interior Styling / Fumiko Sakuhara
Hair & Make-up / Hirokazu Endo(ota office)
Video Director / Yuki Fujinaga
Cinematographer / Hideaki Sakurai
Gaffer / Yasuhiro Ote
Video Producer / Tomonobu Yamamoto
Text / Ryuta Morishita
Edit / Mikiya Otsuka(Esquire)